NEWS
#64 小樽運河発……
先日、某国営放送でミュージシャンの山口一郎さんの特集番組を見る機会があった。
映像には鬱病と診断され、病気と音楽に向き合おうとする山口さんの姿が映されていた。
山口一郎さんは小樽出身である。しかし僕は山口一郎さんよりも、父親である山口保さんという人物を知っていた。
山口保さんは小樽駅近く、船見坂の途中にメリーゴーランドという喫茶店と木工の工房をやっていた。そして、かつては小樽運河保存運動の先鋒にたった人だった。
僕が当時働いていた民宿が船見坂のてっぺんにあり、メリーゴーランドのウインドウに飾られている鳥の彫られた表札はいつも目にしていた。
しかし、山口保さんという人物を知るきっかけになったのは、小樽運河保存運動でもメリーゴーランドでもなく、僕の働いていた民宿にライブにやって来た、友部正人というミュージシャンの歌う「小樽運河発・カナダ行き船」という一つの歌からである。一つの役割を終えていた小樽運河と、ありえたかも知れないもう一つの人生に思いを抱く男。その歌のモデルが山口保さんだと聞いたからだ。
友部正人さんはメリーゴーランドでライブを行い、やがて僕の働く民宿でライブを行うようになっていた。
幼かった山口一郎さんも当時のライブを覚えていると語り、少なからず音楽的出会いを体験している。
「小樽運河発・カナダ行き船」はこう終わっている。
運河は今も生きている 男と共に生きている
今は無くなってしまったが、働いていた民宿ぽんぽん船も、友部正人さんの歌う「船長坂」の中で今も残り続けている。